食材を「摺る・卸す」と言う、地味で決して目立つ事の無い調理過程を担う道具に対して、代を重ねて向かい合っている窯元があります。美濃高田焼きの山只華陶苑さんです。
寛政6年創業・現在7代目にあたる加藤智也さんに高田焼きと日用道具についてのお話を伺いました。
焼物産地が密集している美濃地域の中でも最古窯に分類される高田焼きは、当地特有の良質な粘土が産出される地域です。高田の土は、きめが細かく硬質で、焼成の方法によっては耐火度が高まると言った幅広い性質があるため、その発祥当時より、特に道具性の強い庶民のための日用品を数多く生産してきました。
代表的な物に釜飯用のお釜や湯たんぽ、徳利や汁次、食材保存用の瓶などがありますが、これらの物は
高田の特徴ある土の性質が良く生かされた大変良質な製品ばかりです。
「高田焼きの起源は、大名物など高価な焼物を焼いていた腕のある職人たちが、庶民のための焼物を作るために良質な粘土の採れるこの高田の地に移住してきたのが始まりと聞いています。そのため伝統的に日用道具としての焼物に成熟した物が多いんです。」
産地全体で日用道具の生産に対するDNAを持った高田の地にあって、この山只華陶苑さんにも、長い年月を経て少しずつ進化してきた素晴らしい道具があります。それが「擂り鉢と卸し皿」です。
「道具としての基本となる様なベーシックな部分は昔からまったく変わっていません。そこはキモとなる部分ですから。大切に守って行くべき所です。ですがそれぞれの代で使い方の勝手や心地をさらに良い物となる様に追求してきましたので、考え方やアイデアが少しずつ反映されて進化もしています。
私の代でも現代の生活スタイルに対する新しい試みを模索すると同時に、これまで培ってきた道具としての本質との狭間について日々試行錯誤しています。例えば擂り鉢に施す櫛目一つとっても、摺る感触・摺る過程での食材の香りの立ち方・摺り卸した食材の木目細かさなど追求する余地はたくさんあるンです。」
現代の生産現場の中では、時間と言うコストが真っ先に省かれるものですが、智也さんの話を聞いていると「 擂り鉢や卸し皿 」と言うささやかな日用品がとても贅沢な物に感じられてきます。
「現代では何をするにも便利になり、物事が早く簡単に済ませられる様になっています。もちろんそれはとても良い事ですし、生活の中で必要不可欠な事です。ただ、そちら側にだけ偏ってしまうのは精神的に豊かな事では無いと思うんです。料理をし、食事をすると言う行為は作業ではありませんから。
食材を摺ると言う行為一つとってもフードプロセッサーを使えばあっと言う間に作業は済ませられます。擂り鉢を使い、擂り粉木でゴリゴリと摺っていれば多少の手間と時間が掛かりますが、そのかわりに、食材に対する感触や摺る過程で沸き立つ香りなど、心を満たしてくれる要素を生みだしてくれます。便利に済ませる時と少し手間を掛けて心を満たしてあげる時、両方を使い分ければより生活は豊かになるのではと思うのです。」
長い時間の流れを背負っている智也さんだからこそ話せるこの言葉は、私達にじんわりと染みて行きました。
「窯元としての日用品の生産以外に、私自身のライフワークとしてアート作品も手掛けています。
アートの中では建築家やギャラリーなど他分野の方々とコラボレーションをしたり、それを発表するステージと言うものがあるのですが、受け継いできた窯元の生産現場の中には伝えるべきステージや発展的な交流と言う場が全くありません。
どちらかと言うと思わしくない交流の方が目立ちます。
私達が付加価値となる部分を積み上げてきた製品を、形だけ似せ安易に海外で作られたりするようなことはコストの削減に繋がるのでしょうが、それでは私の子や孫が製品の持つ本質的な価値を継続して繋いで行く様な市場環境にはなりません。
又、海外から安価な製品を大量に輸入することは、国内生産に比べ流通過程の中で何倍もの石油の消費に繋がり、環境面に対しても大きな負荷を掛けています。
昨今の食料問題の中で芽生えている地産地消、自給自足と言った考え方は、これから先の未来に向けて効率よく豊かに過ごすためのとても重要な考え方です。それは食料に限らず国内で生産される様々な分野の製品にも同じ事が言えると思います。私を含め付加価値を繋いできた生産者の方々の多くは、新しい出会いと環境を待ち望んでいると思います。
次の代の人々が希望を持って引き継いで行き、製品の持つ根源的な価値の継続が行なわれる様な環境が生まれる事を願っています。」
智也さんの物作りに対する姿勢は、高田の地に窯を開いた開拓者の方々が抱いていた、庶民のための日用品を生産する事で生活を支えて行こうとするその志とまったく変わらないものを感じました。
TOJIKI TONYAも産地の中で生きている問屋です。
私達は産地と消費者とを繋ぐ役割を担うと共に、産地の培った時間を繋ぐ役割も担って行かなければなりません。山只華陶苑さんを始め、良質な製品を生み出している生産者の方々と共に、消費者の皆様の生活にとって何が豊かであるのかを考え、本質的な価値を提案できるステージの開拓に取り組んで参ります。
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